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山口地方裁判所宇部支部 昭和56年(ワ)86号 判決

主文

1  被告は、原告に対し、金一九万三七八〇円及びこれに対する昭和五六年五月二六日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金六七万八二三〇円及びこれに対する昭和五六年五月二六日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五四年一〇月六日、普通乗用自動車を運転して、小野田市上木屋五八七番地前道路上を走行中、その過失により、訴外伊藤豊に右自動車を衝突させ、同人に傷害を負わせた。

2  右伊藤豊は、右傷害により、山口労災病院において治療を受けた。

3  原告は、右伊藤豊が原告の組合員訴外伊藤敏明の被扶養者であり、かつ、同人が昭和五四年一一月から昭和五五年六月までの間組合保険を利用して治療を受けたため、右期間中の治療費のうち合計金六七万八二三〇円を山口労災病院に支払つた。したがつて、原告は、健康保険法六七条により、訴外伊藤豊が被告に対して有する損害賠償請求権のうち、金六七万八二三〇円を代位取得した。

4  仮に然らずとするも、被告は、昭和五四年一一月一六日、原告に対し、右金六七万八二三〇円を支払う旨約した。

5  よつて、原告は、被告に対し、右金六七万八二三〇円とこれに対する本件支払命令送達の日の翌日である昭和五六年五月二六日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は全部否認する。

三  抗弁

本件交通事故の発生については、訴外伊藤豊にも過失があつた。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1及び抗弁について判断するに、成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一、二、被告本人の供述によれば、次の事実が認められる。すなわち、

被告は、昭和五四年一〇月六日午後一時ころ、小野田市上木屋所在の訴外伊藤豊方前道路上を小野田駅方面から宇部駅方面へ向け、時速四〇キロメートルで走行中、左方の見通しの悪い交差点に差しかかつたが、減速することなく同一速度で走行中、突然、左方交差道路から自転車に乗つて右交差点内に進入して来た訴外伊藤豊を約六・四メートル先に認め、急ブレーキをかけたが及ばず、同自転車に自車前部を衝突させ、よつて、同人に対し、右鎖骨々折等の傷害を負わせたこと、被告の進行していた道路は、幅員約六・六メートルであり、その中央線は交差点の中まで連続して引かれていて、右伊藤豊の進行していた交差道路(幅員約四メートル)に対してはいわゆる優先道路の関係にあるが、しかしながら、右交差点にはカーブミラーが設置してあり、被告の進行方向から左方交差道路の状況を見ることは可能であつたのに、被告は右カーブミラーに被害者伊藤豊を発見できなかつたこと、以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件事故の発生については、道路交通法三六条四項に照らし、なお、被告に過失があつたものと認めざるを得ないが、被害者伊藤豊にも過失があつたものといわざるを得ず、その割合は、被告二割、右伊藤豊八割と認めるのが相当である。被告の抗弁は、この限度で理由がある。

二  証人伊藤達之の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証によれば、請求原因2及び3の事実が認められる(なお、証人織田村陽の証言によれば、訴外伊藤豊は、本件事故後昭和五四年一〇月末日までは、本件組合保険によらないで診察を受けていたことが認められる。)。

ところで、右甲第二号証、証人伊藤達之の証言によれば、昭和五四年一一月から昭和五五年六月までの間に要した訴外伊藤豊の治療費は、合計金九六万八九〇〇円であり、原告は、その七割に相当する金六七万八二三〇円を山口労災病院に支払つたことが認められるが、原告が代位取得する訴外伊藤豊の被告に対する損害賠償請求は、過失相殺後の額にとどまるものと解するのが相当であるから、結局、原告が代位取得した被告に対する請求権は、金一九万三七八〇円(96万8900円×0.2)というべきである。

三  本件全証拠によるも、請求原因4の事実を認めることができない(甲第一号証には、被告がその過失責任の範囲において原告の求償に応じる旨明記されているところであり、そうとすると、原告が被告に求償できる金額は、前記金一九万三七八〇円というべきである。)。

四  よつて、原告の本訴請求は、金一九万三七八〇円とこれに対する本件支払命令送達の日の翌日である昭和五六年五月二六日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容することとし、その余の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田敏章)

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